9月4日 今日も晴れ

 知り合いの同業者が、オークウォーリアーと交戦して倒したと言っていた。
 わたしとあの人の腕の差はあまりないはず、ならば今のわたしにも倒せるということだ。

 嫌な記憶を思い出しちゃった。

 あの森に好奇心で入るなり出くわしたアイツ。
 実は記憶に残ってることは少ない、ただ森の木々の緑と生臭いアイツの吐息だけが、頭の片隅にこびりついてる。
 覚えてるのはボロボロになった自分の体を引きずって、引き返す道中の事ばかりだ。

 抵抗もできなかった、なす術を思いつく間もなく地面に打ち倒されていた。
 アイツは上機嫌に、動かぬわたしを置き去りにして、森の奥へと消えていった。

 情けなかった、悔しかった、でもそれ以上に涙がボロボロと流れ出るのを悲しいと思った。
 体も痛かったけど、心はもっと痛かった。
 あの時のことは忘れられそうにない、今だって生々しく思い出せる。

 だから、わたしはすぐに森に向かった。
 わたしが今あるままにこれからも生きてゆく、そのためには必要な事だと思ったから。
 森について、ためらうことなく茂みへと分け入った・
 本当は不安でドキドキしてる、やっぱり前回の記憶がどうしても脳裏をよぎるから。
 アイツを絶対見つけてやりたいという気持ちと、出てきて欲しくないという気持ちがせめぎあってる気がする。
 でも前者の勝ち、わたしは自信ありげに足を進めた。
 白状すると、少し頭の中が白い感じで。足元がフワフワしてる気がしてた。
 いま、この日記を書いてて不思議に思ったことがある。
 そんなお酒に酔っ払ったような気分が、あの瞬間、一気に掻き消えた事だ。

 足を進めるその目前の茂み、そこからガサガサという何かがすれる音とともに、ハァハァという忘れようもない生臭げな吐息。
 何度聞いても気持ち悪いぐらい、嫌らしい呼吸音。
 それらが耳に入った途端、浮ついてた気分がシャンとした。
 白かった頭の中がスッキリと透明に、ふわふわしていた足元が急にがっしりして力が入った。
 右手にある剣の感触がすごく頼もしく思った。

 その後のことはあまり詳しく思い出せない、もちろん前回とはまったく違う理由で。
 わたしは体の覚えてる限りのことをやった、考えるより先に思いつく技を振るった。
 勝てると思う事はなかった、その前にアイツが倒れていたから。
 わたしが思ったのは「勝った」ただそれだけだった。
 そう、わたしは勝ったんだ、以前は一撃で倒されたオークウォーリアーに。 

 その日は夜遅くなっても、まだどこか興奮していた。
 戦いに満足していた。
 ただ、わたしの話を聞いた人のうち、一人ばかり気持ちに水を差してくれたのがいた。
 ソイツは口を開くなり、こう言った。
「純潔は守られたんだね☆」
 ……確かにそういう曲解が出来る話し方をしちゃったけど……
 わたしはソイツを白い目で見て
「ばーか」
 と言ってやった。
 明日からは、さらに
「助平」
 と言ってやろうと思う。


広田さんから頂いた「Willamoon日記」です。ありがとうございます。
最後に白い目で見られているのは、私自身だそうです。わ〜い(爆)。


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