網膜疾患

糖尿病網膜症

糖尿病は全身疾患で実に様々な合併症を来たしますが、その中でも、眼や腎臓といった毛細血管の豊富な臓器に重篤な合併症を来たします。網膜は光を感受する視細胞を含む重要な神経組織ですが、毛細血管が網目状にはりめぐり血液が循環しています。糖尿病網膜症はその網膜毛細血管の血液循環が徐々に障害されて行く病気です。
初期には非常に小さい血管のこぶ(瘤)ができて、その数が無数に増えていきます。そして、小さな出血が起こります。血液中の蛋白や脂肪が、痛んだ血管から外に漏れて蓄積していきます。中期になりますと、出血の数や大きさが増え、所々毛細血管がつぶれていきます。そして、もう少し進行して後期になると、つぶれた毛細血管の付近から、異常な血管が新しく伸びてきます。この異常血管からは容易に多量の出血を来たすようになりますし、異常血管自体が増殖して膜となり、強く網膜と癒着し、ひっぱって網膜剥離を起こします。網膜症の末期は網膜剥離か緑内障で失明します。
糖尿病になり5年程経過しますと、3割の患者さんに網膜症が生じ、10年以上経過すると5割近くが発症します。糖尿病網膜症の恐ろしさは、初期には自覚症状がほとんど無く、中期になってもまだ気付かないことが多いということです。つまり、自分で”見えにくいなあ”と感じるようになった場合、病気は後期まで進行していることが多いのです。成人の失明する病気の1位は糖尿病網膜症です。飽食の現代社会で糖尿病の患者さんは500万人以上います。内科で十分に治療していない場合はもちろんですが、内科だけかかって眼の検診をしていないと、網膜症に気付かないことが大変多いので、ご注意いただきたいと思います。

(治療)原則は内科的に血糖コントロールを安定させることです。初期の網膜症の時期に発見し、コントロールできれば、視力は侵されずにすみます。
中期以降は、網膜レーザー光凝固を行う必要があります。レーザー光線で、毛細血管のつぶれた部分や漏れの大きい血管瘤を焼いて、病気が後期へと進行するのを防ぎます。
後期まで進んだ増殖性網膜症に対しては、網膜硝子体手術が必要になります。手術で異常血管や出血をできるだけ取り除き、網膜剥離を治さなければいけません。手術の際には徹底的にレーザー光凝固を追加して網膜症の進行を停止させます。

裂孔原性網膜剥離

網膜に裂け目(裂孔)ができて、その裂け目を通じて網膜が眼の底から剥がれる病気です。原因は打撲などの怪我によることもありますが、特別な原因なく自然に生じることのほうが多いです。ただし、近眼が強い方はこの病気になる可能性が高くなります。人口1万人に対して1人なる程度ですので頻度は少ないですが、片目になった方が反対の目もなる可能性は10%ほどあります。
 網膜はカメラにたとえると大切なフィルムです。網膜が剥がれると、映像が映らなくなるために見えなくなります。そして、約1週間以上日にちが経つと、網膜は傷んでしまい、もう元通りには見えなくなり、とうとう失明します。従って、裂孔原性網膜剥離になった場合は早急に手術をしなければなりません。
 この病気の初期症状は、ちらちら黒っぽい影が目の前に飛んで見える場合(飛蚊症)や、チカッと光が光って見える場合(光視症)です。そして、網膜剥離が進行すれば、次第に視野が欠けて行き、終にはほとんど物が見えなくなります。そうした症状があっても気に留めず、”眼鏡が合わなくなったのだろう”とか”疲れているせいかな”などと思わず、眼科に足を運んで頂きたいと思います。”

(治療)手術する以外に方法はありません。初期で軽い場合はレーザー手術で治療できることがあり、治療は楽に済みます。それ以外は硝子体手術かバックル手術を行います。最も適切と思われる手術法を選択し網膜剥離を早期に完全に治さなければいけません。どちらの手術方法が良いかは、1例1例異なりますので、執刀医の説明をよく聞いてください。

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網膜剥離の眼底写真

写真中央から下方にかけて網膜がはがれ、
浮き上がっている。

網膜静脈閉塞症 

網膜血管には動脈と静脈があり、動脈から流れ込んで組織に還流した血液は静脈から眼の外に流出します。動脈硬化や高血圧が慢性的に続いた結果、静脈が詰まって血行が阻害され、血管が破綻し出血をしたのがこの病気です。
眼の中で枝分かれした静脈が閉塞した場合は網膜分枝静脈閉塞症と言い、出血は眼の中の一部(4分の1程度)に広がっています。閉塞部が視神経の内部の場合は網膜中心静脈閉塞症と言い、出血は眼全体におよび重症です。閉塞の程度(=出血や浮腫の程度)によっては神経網膜の障害は重大で、特にものを見る中心(=黄斑)に出血や浮腫がおよぶ場合は視力がかなり低下し、血液が充分に行渡らない状態(=虚血)が続くと、視機能は回復しなくなります。そして、この病気になって長期間放置していた場合、新生血管(増殖)が生じ硝子体出血や重症緑内障になることがあります。

(治療)虚血の程度がひどい場合は、その部分にレーザー光凝固を行い、増殖が生じないように進行を停止させる必要があります。特に網膜中心静脈閉塞症で眼底全体に虚血が見られる場合は、徹底的なレーザー治療が必要です。
黄斑部に出血や浮腫が強い場合は、レーザー治療では視力の改善は難しく、硝子体手術を行います。

糖尿病網膜症
網膜裂孔、網膜格子状変性
裂孔原性網膜剥離
網膜静脈閉塞症
硝子体出血

硝子体出血

硝子体(しょうしたい)とは眼球の内腔をしめる透明な寒天様の物質です。ほとんどは水分ですが、コラーゲン線維が含まれています。その硝子体に網膜からの出血が拡散したのが硝子体出血です。本来透明な硝子体が出血で濁りますと、光が視細胞に届きませんので非常に見えにくくなります。出血が軽い場合は数週間で吸収されますが、濃い場合は数カ月以上かかります。問題は出血の原因です。糖尿病網膜症以外には網膜静脈閉塞症、網膜細動脈瘤破裂、網膜裂孔などが原因となることが多いですが、それらの原因疾患がものをみる中心(黄斑)に障害を及ぼしている場合や、網膜剥離を合併した場合は、大きな後遺症を残す心配がありますので至急硝子体手術を行って出血を取り、それら原因疾患の治療をしなければなりません。

眼底出血をおこす全身の病気

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網膜裂孔、網膜格子状変性と網膜周辺部萎縮性円孔

眼底には網膜(光を受容して物を見る神経の膜)があります。その網膜に出来た”裂けめ”=”破れめ”を網膜裂孔といいます。眼底の周辺部に網膜の傷んだところ(網膜格子状変性)がある方には、その中に小さな丸い穴(萎縮性円孔)が出来ることもあります。原因は打撲などの外傷でできることもありますが、実際は、そうした特別な原因は無く、たまたまできることの方が大半です。眼の中空は硝子体という線維成分を含む透明な寒天様の物質が占めていますが、年齢が約50歳以上になると、それまでくっ付いていた網膜から自然に外れるという現象が起こります(後部硝子体剥離)。その時に、その硝子体が網膜を引っ張って、網膜が破れて出来るのです。次に説明する網膜剥離を起こすと失明につながりますので、早急に治療しなければいけません。レーザー手術で裂孔や変性の周囲を凝固して固めてしまうのが主な治療法です。
飛蚊症(ひぶんしょう)という、小さな虫や糸くずのような物が目の前をチラチラと飛んで見えるような症状や、チカッと光が光って見える症状(光視症)を感じたら、一度眼科で眼底検査を受けてみてください。
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