泊篤志のフランス日記


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2月10〜16日の日記

2月10日(月)
いよいよフランスも後半戦に突入。
朝のストラスブールは寒かった。
たぶん0℃前後。
そんな中、外に出る。
変な路面電車が通っている。
妙に未来的なデザインとガチャガチャと車両の音のしない静かな走行。
街は古い様式の建物だらけなのに、電車だけ手塚治虫ふう。
目的地の途中にあるノートルダム大聖堂(和訳すると「聖母大聖堂」、この名前の教会はあちこちにある)に行く。
すすす凄んごい。まず建物が驚異的だ。
塔が高いし、作りの細かさが見る者を圧倒する。
中がまた凄いんだ。
天井や壁面の装飾はモンマルトルで見たサクレ・クール聖堂には負けるけど、観光客が皆無なので、雰囲気は最高。
さらに涙腺が緩んでしまう一品に出会った。
超巨大なからくり時計だ。
からくり時計ったって、デパートにおいてある様なのとはもちろん違う。
月の満ち欠けを現していたり、キリストやその信徒が現れたりするのだ。
これもまた世界を表現しようとしていたのではないか?と勝手に想像してしまう。
まるで宇宙を、「時間」というモノを使って何とか現したかったのではないか?などと想像は膨らんでしまう。
いや、そんなことを想像しちゃうくらい圧倒的なんだって。
午前中は、ラン国立オペラ座を見学。
15世紀の建物の中身だけ改造した、稽古場&工房が眩しく見える。
昔ながらのイタリア式オペラ劇場も素敵だ。
その後、子供向けの演目を作ったり上演してる劇場を見て、ディレクターさんと昼食。
人形劇を作ってる為か、日本の文楽にたいへん興味があるようでした。
午後は市の文化部など、行政的な機関を回り、夜はいよいよオペラ座でオペラ「Arabella」を観劇。
豪華な客席は、天井桟敷も含めてほぼ100%が埋まる。
お話は恋の物語で、すれ違ったりしながらも上手いことそれなりにハッピーなラストを迎える・・・というもの。
パリのオペラよりも田舎っぽいというか洗練されてない感じがしたけど、出演者個々の力、魅力で存分に楽しめた。


オペラ座の天井を見上げる・・・。


2月11日(火)
寒い!昨日よりさらに寒い!
暖かい格好をしてきたわりにパリではそうでもなかったな、と思ってたけど、ストラスブールではこれでもまだ寒い。
ストラスの美術館・博物館(11個ある)の館長さん(1人で11個見てる)に会う。
本人は現代アートの専門だけど、中世の美術品から動物博物館まで見ているという大変な役職の人。
なによりも観客拡大のユニークな取り組みが聞けて面白かった。
フランスという国は「文化の国」なんて言うけれど、ちゃあんとやることはやっているのだ。
確かに豊かな資産はあるけれど、そこにあぐらをかいてないトコロが素晴らしい。

昼間にちょっと時間が出来たので、お買い物タイム。
ストラス地元の可愛らしいお土産をちょっと買い、CDショップでMASSIVEATTACKのニューアルバム『100TH WINDOW』を買う(今はそれを聞きながら日記書き。あー、いいわぁ)。
昨日訪れたノートルダム大聖堂のからくり時計が動き始めるのが12:30だというのを思い出して、中に駆け込む。
この時間はなんと拝観料みたいなのを85セント(約100円)取られる。
そして何故か解説のおじさんのナレーションでからくりスタート・・・・。
え?これだけ?
いや、正直な話。
キリストの周りを使徒がグルグル回り、時々(なぜか)鶏の鳴き声がするだけ。
あの見えてる月は見せてるだけ?あの巨大な歯車はグリングリン動いたりしないの?昔は動いてたのかな?
モノが凄いだけに想像が膨らみすぎていたのか、一緒に見ていたMtさんと「ちょっとガッカリでしたね」と言い合う。
昼はマヨン劇場のディレクターさんと昼食を食べながら、意見交換。
僕は地元料理ザワークラフト(濃い肉たち&キャベツを蒸したもの)を。
その後実際の劇場も見たんだけど、普段は展示場に使ってそうな会場を9月〜翌6月まで劇場に改変して使ってるんだそうな。
去年世田谷で見たルパージュの作品もココでやったそうな。
ルパージュ作品は劇場の機構をフルに使って出来てる作品なのに、よくぞこんな仮設舞台で出来たものだ。

夜、ストラスブール国立劇場で現代演劇『ANTHROPOZOO』を観劇。
この劇場では、来月から平田オリザ氏の『S高原から』が地元の製作によって上演されるらしい。
んで、その『アントロポズー』ですけどね、結構日本の小劇場演劇みたいでした。
笑いを狙ってくるシーン有り、きっちり役割分担されたキャラクター有り、役者個人のキャラで笑わせたり・・・。
内容は第三エロチカの『ニッポンウォーズ』に似てた・・・かな。
近未来モノで。台詞はやはりさっぱり分からないので1時間半くらい観たところで退出。
しかしなるほどそういった演劇もフランスにはあったのだ。

ストラスブールでのプログラムはココで終わりとなり、ココだけの通訳Fujiiさんともさよならとなる。
このFujiiさんは関西の出身で、フランスの方と結婚し子供も3人居るという方。
関西なまりの通訳がとってもオモロイ方でした。


現代美術館のエントランスにあったアート作品「うんこ人間(勝手に命名)」。


2月12日(水)
朝6時半置き、7時朝食、7時15分ホテルのロビー集合。
眠いねー、3時間しか寝て無いねー。
ストラスブール駅までトラムで向かう。
さらばストラスブール、来て良かったよ、スケジュールはハードだったけど、その雰囲気がのんびりしてて。
例えば東京から北九州に帰ってきた時の事を思い出したよ。
しかし特急列車は、喧騒の街パリへ向かうのだった。
来るときは夜で、周りの景色がほとんど見えなかったんだけど、今回は通り過ぎる家々や村々を、ただ広大な草原を、川や丘を見ることが出来た。
フランスの国土は広いなーっと思ったものの、国の中心から国境まで4時間で行ける事を思うと、そうでもないのかしらんと思った。
4時間後、着きましたパリ。
騒がしい街だよやっぱり。
ちょうどお昼だったので、行きました日本料理店。
僕は「カツ丼」を食し、Mtさんは刺身セットを食していた。
午後、今日唯一の訪問先「カルティエ財団」へ。
ここは、あの「カルチェ」が現代アートの振興に、と作った財団である。
ディレクターさんの話で最も興味深かったのは、
1)カルチェがやってることだけど、ミュージアムでカルチェ商品のCMはしない。
ミュージアムで紹介したアーティストにカルチェ商品のデザインを発注したりしない。
つまり財団の活動と会社の直接的な関わりを持たない。
2)「パリの他のミュージアムとの差別化などを考えますか?」という質問に、しばらくうなった後で「考えない」と言ったこと。
自信あるというか揺るぎないと言うか。日本ならやっぱCMはするだろうし、差別化も考えるよねー、と感心。
このミュージアムでは、例えば、アラーキーやイッセイミヤケなど日本の様々なアーティストの特集もやっている。
ちなみにアラーキーは、ディレクター氏が日本の書店で写真集を見て興味を持ち、直接交渉したんだそうな。
ココに居て思うのは、彼らアートを求める人々は「日本だから、日本のアーティストを探す」ということを例えばしない。
「アーティストを探してたら、偶然に日本人に出会って」いる。
日本アニメの宮崎も大友も押井も、映画の北野も、ファッションの多くのデザイナーも「日本人だから」受け入れられた訳ではない。
彼らの敏感なアンテナは恐ろしく世界中くまなく広がっていて、ちょっとこれはぼやっとしてられないな、と思った。


ストラスブールのトラム(路面電車)

2月13日(木)
朝から国立劇場の1つ、コリン劇場へ。
750席、200席の大小2つの劇場をもつコリンは、まず「テキスト有り」の劇場だ。
つまり戯曲。
当初は「古典はやらない」で「現代の作家」だけで運営していたが、現在は20世紀の作家は取り上げる、という方向になっているのだそうな。
先日ストラスブールで観た『ANTHROPOZOO』は、このコリン劇場とストラスブールの劇場の共同製作の作品だった。
作・演出者は、コリン劇場との契約作家なんだそうな。
ふーん。
その他、「フランスの俳優は年間3ヶ月俳優として働いていれば、働けなかった残りの9ヶ月の最低限の生活が保障される」という話で日本人チームが、やや紛糾。
その制度が良いか悪いかは別にして、フランスって国はそういう制度を導入してでもある程度の俳優を確保しておきたい国なのだ。
そしてそれが国家のためになると考えているのだ。
まあ、日本ではとうてい導入されそうにない。

午後はコンセルバトワール・ドラマチック(フランスの最高の俳優養成学校)へ。
受験者は毎年1000人、合格者は30人という狭き門。
授業料は無料。
フランスという国は国家として俳優の養成が必要だと考えている訳ですよ。

夕方、もうそろそろパリも最後ねと凱旋門を見に行った。
そこで日本の女子大生2人組に「写真お願いしていいですか?」と頼まれた。
僕は凱旋門をバックに彼女たちの写真を「写るんです」で撮った。

夜、パリ市立劇場で上演されるサーカスふうパフォーマンスを観に行こうと思ったんだけど、チケットが完売(いつも完売なんだけど、通常ちょっと関係者用に残している)で、行けなかった。
代わりにkeikoさんが、自分ちの近所のカフェ&レストランがなかなか良いので来ないか?と誘ってくれ、Ymさんと2人で行く。
なかなか現地の人しか入れない雰囲気のカッチョイイ店。
どうやらアーティスト達が集まる店なんだそうな。
たくさんの人間、たくさんの人種、たくさんの思惑。
店の横のライブハウスではロックが演奏されて女性シンガーがとても迫力ある声を聞かせていた。
エスプレッソを口に運びながらkeikoさんは、アメリカとイラクの話を少しだけした。
今週末、パリでは反戦の大規模なデモがあるらしい。
「私もたぶん、行きます」そう彼女は言った。
もし、この戦争が始まったら、アメリカが勝っても、勝たなくても、今後の世界の有り方を大きく変えてしまう、のではないか?
と、そんなことを僕は考えた。


そんな激しいカフェの前で


2月14日(金)
やあ、今日はバレンタインデーだね。
パリではカップルのいちゃいちゃぶりが目に余ります。
いや、いいんだけどね。
「おー、やっとるやっとる」そんな感じで眺めております。
フランスのバレンタインデーは、「女の子が告白する日」では無いようです。
取材したところ、「カップル(夫婦含む)が良い感じになる日」みたいです。
なので、お互いにプレゼントを用意します。
コチラの男性はパートナーに平気で下着のプレゼントをするそうです。
また、フランスはチョコレート天国なので、プレゼントにチョコも有りです。
ちなみに本日夕方、仕事終りのOLふう女性がKENZOの手さげを持って小走りに歩いてるってえのを2人見ました。
男性へのプレゼントはもしかしたらKENZOがトレンドなのかも知れません。

そんなことはともかく、今日でフランス滞在の全プログラムが終わる。
午前は、パリ日本文化会館を訪問。
ここにはギャラリーも図書館も劇場もあるのだ!そして日本の文化をフランスに紹介しているのだ!
そしてパリ市民の利用は結構多いらしいのだ。
日本映画の特集(既にフランスで売れてる日本映画以外)や、アート、演劇、ダンスが紹介されている。
伊藤キムも青年団『東京ノート』もク・ナウカ『王女メデイア』もココの劇場で上演されている。
エッフェル塔やセーヌ川を臨む最高の場所に、何とも贅沢な場所があったのだ。
午後の食事をしながら、今回のフランス研修の報告会。
フランス文化コミュニケーション省の皆さん他、かなりな顔ぶれが揃う。
この中で、食事をしながら4人の参加者がそれぞれ感想を述べるのだ。
トップバッターは今回の団長Inさん、続いて僕。
前菜が終り、メインに移行する間のトーク。
それなりに掴み、笑いも混ぜ、まあコイツにフランスに来させて良かったんじゃないか、と思わせる事は出来たのではないか、と思う。
通訳のitouさんに感謝だ。
続いて、Ymさん、そしてMtさん。
皆、それぞれの立場で感じたことを率直に言っていた。
それぞれが何かしら強烈な「何か」を埋め込まれているのを感じる。
自分も含め、それぞれの今後の動向が楽しみだ。
午後は、最後の訪問先「ボビニー劇場」へ。
ここはパリのちょっと郊外の劇場。
団地が立ち、低所得者が多く住む地域らしい。
街の雰囲気がこれまでと全然違う。
路面電車が通り、日本の郊外の団地街と似た雰囲気がある。
そんな中にあるのに、演目は尖がっているらしい。
テアトル・ド・コンプリシテの演目も入っている。
keikoさんも「ここのプログラメーションはいいから、パリ中心地からわざわざ来る人が多い」と言っていた。
ここのディレクター氏が言ってた言葉が印象に残る。
「TVのニュースだったら1分で終わっちゃう事を、演劇は2時間かけて観客に考えてもらえるんだよ」
そんな素晴らしい舞台に日々触れられる市民はきっと幸せなんだろうと思う。

これで全てのプログラムが終わった。
僕ら4人は関係した皆さんと少しずつメトロで別れた。
ホテルまで来てくれたkeikoさんとはホテルで別れた。
僕らは中華を食べに行き、ビールを飲んだ。
Inさんは麺類が食べたかったらしいけど、店には無く「えー、ヌードル無いのー」を連発していた。
フランスで食べたラーメンがかなり不味かったらしく、その恨みを晴らしたかったらしい。
そして、今回の事を語り合ってはいたんだけど、いつの間にか馬鹿話に終始していた。
街は幸せそうなカップルで溢れていたけど、1人、絵に描いたような「待ちぼうけの男」が居た。
彼は花束を持ち、電話で誰かと口論していた。
いつも世の中は完璧ではない。
そして今、僕は何かをやり残している気がしてならない。


パリはすっかりバレンタイン。世界に愛を!

2月15日(土)
今日は夕方のフライトまで何もすることが無いので、お土産をまとめ買いする日。
午後3時のホテル集合まで、ルーブル美術館のショップ(結構充実しているのだ)でお買い物。
2〜300円の、まとめ買いには最適な品から、驚くほど目の飛び出る高値の品まで(例えば有名な彫刻の精巧なレプリカとか)ある。
僕が買うのはもちろん前者、ね。
泊近辺の人はあまり期待しないでお待ちください。
この日、Mtさんは小さな美術館を駆け回り、Ymさんは凱旋門を見に行ったらしい。
集合時間にホテルに着くと前の通りが、「車は通行禁止!」になっていた。
何でも、デモの関係で交通規制が始まっているとの事。
僕らがタクシーに乗り、飛行場へ向かっている頃、パリでは反戦デモがあっていたのだ。
僕らは飛行場の免税店を眺め、飛行機に乗った。
週末の飛行機は満席だ。
帰りはポケモンジェットではなかった。
深夜機内で、ジャッキー・チェンの『タキシード』という映画を見た。
ちょっとだけ出演のジェームス・ブラウンがジャッキーにぶっ飛ばされるシーンは面白かった。
ダウンしたJ.Bに代わってジャッキーが歌い(本人?)踊る「セックスマシーン」はちっともセクシーじゃなかった。
たぶん、この映画を見終ったくらいが今日の終わり。



飛ぶ劇サイトの「メンバーの日々」で桑島名誉会長が「プジョーの後姿は人の顔に似ている」と書いてたけど、これがその「プジョー206」。
確かに舌をちょびっと出したひょうきんな顔に見えて可笑しい。パリでは人気NO.1の車だ。
2人乗りの車smartが結構普及してるし、NISSANマーチも時々見るぞ。
駐車スペースが少ないから小型車が人気なのだ。


2月16日(日)
一睡も出来ずに成田に着いた。
僕ら4人は無事日本へ帰りついた。
Inさんは思ったよりもチャレンジャーな人だった。
Mtさんは柔らかい口調ながら意外に毒舌を吐いていた。
Ymさんはニコチンが切れると右手をプルプル震わせて皆を怖がらせた。

僕は成田で15日の日記を劇団に送り、福岡空港へ向かい、家に帰り着いた。
パリを出て21時間。
僕の住む街や家はやけにちっぽけだった。
ここには沢山の現実が待っていた。
まずは『大砲』を書かなきゃ、だ。
僕はフランスで何かしら杭の様なものを打ち込まれ、帰ってきた。んだと思う。
僕の心の中にはその杭に引っかかった何かが宙ぶらりんなまま残り、僕に旅の充実感を感じさせてくれない。
14年前、バリ島から戻ってきた大学生の僕がそうだった事を思い出した。
あの時は2週間くらいぼんやりしていた。
今回はぼんやりは出来ない。
「杭」や「宙ぶらりん」の正体を見極めようと思う。
その正体に少しでも近づけたら『大砲』はきっと名作になると思う。
8月に予定している新作『カズクン』も新しいベクトルを持った作品になると思う。
とにかく、久々に長めの旅が終わった。
たまにはそうやって自分をすっからかんにし、外から自分を見てみるのもいいもんだ。


シャルル・ドゴール空港の動く歩道にて。
ちょっと、映画『未来世紀ブラジル』っぽいよね。
奥に見えるのがYmさん。

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