[1950〜60年代 大人向け作品紹介



●徳川夢声『同行二人』
徳川夢声 対談集 初版 昭和25年11月15日発行 養徳社刊
  ○東京日日新聞 1950年3月1日〜7月20日 142回連載
  ○単行本:対談者の各章扉に長新太作画による似顔絵(計14枚)
  ○対談者14人:片山哲(政治家)、呉清源(囲碁棋士)、ヒロセ元美(ストリッパー)、八木秀次(科学者)、
   藤原義江(声楽家)、高峰秀子(女優)、別当薫(野球選手)、安部能成(哲学者)、ターキー(女優)、
   楢橋渡(政治家)、古今志ん生(落語家)、田中家女将、尾上梅幸(歌舞伎役者)、大佛次郎(作家)
装幀・宮田重雄        扉絵・長新太
  
1948年に、東京日日新聞社の新人コンクールに一等入選。翌年1949年から4コマ漫画の連載。
そして1950年の仕事がこの徳川夢声対談『同行二人』の挿絵だった。
それにしてもデビュー2年目。22歳にして、すでに老成したような無駄のないタッチにびっくりする。
似顔絵は、単に姿形をリアリズムで描くのではなく、人柄(個性)を一瞬の表情に凝縮して、誇張、省略、単純化してしまうセンスが必要。
つまり鋭い観察眼とユーモアだ。私たちがよく知る絵柄とは違っても、「やっぱり長さんなのだ!」と思ってしまう。



●月刊誌『世界の旅』<特集・パリ>昭和36年11月号
 1961年11月1日発行 修道社・刊
 収録作品:イラスト&エッセイ「パリ祭とセーヌの魚」 長新太


見開き2ページ
下段に紀行エッセイと上段にイラスト2枚


この雑誌『世界の旅』は、昭和34年に「世界の旅 日本の旅」として発刊されました。
修道社の社長・秋山修道が編集兼発行者です。単なる旅行案内本ではなくて、文学、美術、音楽などのハイブローな紀行文が多いように思います。
執筆者には、堀内誠一、小田切秀雄、岩崎力、長沢節、三木鮎郎、宮尾しげを、横山隆一などの名前があります。
巻末記載のバックナンバー1961.4(21号)〜1961.10(27号)には、長新太の名前がないので、この号はゲスト的な掲載だったと思われます。

この作品の貴重なところは、長さんがイタリアでの<国際漫画家サロン>に出席した際の紀行文だからです。
文の終わりに(本年六月末出発、八月イタリアのボルデゲラで催された国際漫画家サロンに出席の後ヨーロッパ各国を旅行、九月帰国)とあります。

文章の内容を、かいつまんで述べます。
前半は、7月14日のこと。とても寒い、雨上がりの日。コンコルド広場を兵隊が行進しているのを見ている。
少ししてルーブルまで行くと、先ほどの兵隊が休んでいる。なんだかかったるそうで無気力そうだ。
その時、突然、ジェット機があわてたように飛び立っていく。(それを絵にしたのが右側)
後半は、9月に再びパリに来た時のこと。またもや小雨で寒い。セーヌの川岸を眺めている。
川にはなぜか魚が死んでたくさん浮いている。それを眺めているレストランのオヤジがいる。
オヤジは死んだ魚をすくってフライにするんじゃないかと勝手に空想する。
即朝、パリから飛行機に乗る。機内食に魚が出るので、さけて食べる。
でもそれは川魚ではなくマグロだった。そして文の最後は、「一人旅は、こんな具合である。」

長さんは、見る人、観察者。そして空想をたくましく楽しんでいます。長さんは、一人旅が好きだったようですね。
1979(昭和54)年刊の『北海道・ぐるりトコトコ/たまに ひとりで・・・・』という紀行本がありますけど、あれも一人旅。
「トンカチおじさん」や「なんじゃもんじゃ博士」みたい。

絵柄のこと。
『三びきのライオンのこ』(こどものとも版)が’61年3月刊ですから、その後ですね。
’62年5月刊の『オニの子・ブン』(山中恒・文)と同じ絵柄だと思います。
『三びきのライオンのこ』は、ポキポキからスタイルを変えた直後で、線が解き放たれたような自由さに溢れているように感じます。
そしてこの雑誌の絵や『オニの子・ブン』は、それより落ち着いた感じで、柔らかくて可愛らしいメルヘンチックな感じがします。
ですから、この時期の絵柄を、個人的には<メルヘン・スタイル>と呼んでいます。




●『KODAMA外国民謡集』別冊KODAMA  No.9
  昭和35年6月30日発行 発行所:コダマプレス/フォノシート制作:キングレコード株式会社
 イラストレーション・長新太
1960(昭和35)年6月発行の歌集『KODAMA外国民謡集』のイラストレーションを長さんが担当しています。
コダマプレスの発行していたフイルムレコード(フォノシート)付の歌集<なつかしい歌の花束>3冊セットのうちの1冊。
歌詞の横に、その国をイメージする写真と長さんのイラストが添えられています。
 
<なつかしい歌の花束>箱入り3冊セットの中の一冊
 
@イギリス民謡「埴生の宿」のカット Aスペイン民謡「ラ・パロマ」のカット
  
Bアメリカ民謡「マギー、若き日の歌を」のカット   Cドイツ民謡「ローレライ」のカット    Dイタリア民謡「オーソレミオ」のカット
Eロシア民謡「カチューシャ」のカット

ちょうど『山のむこうは青い海だった』(今江祥智・文 1960年10月 理論社・刊)と同じ頃で、長さんの絵柄もポキポキ・スタイルですね。
前年の『おしゃべりなたまごやき』(寺本輝夫・文 1959年 福音館書店)に比べて線が柔らかく感じられます。
この翌年の『三びきのライオンのこ』(今江祥智・文 1961年3月 福音館書店・刊)では、躍動的な筆使いとコロコロした丸みのある人物(動物)造形になります。
ですからポキポキ・スタイルの後期というところでしょうか。
雪の美しい情景を描いたE「カチューシャ」のカットは、走り去るソリや木から順に落ちる雪の動きを、スピード感のある柔らかい線で描いています。
この頃の長さんの絵には、A「ラ・パロマ」のカットのように画面の中で人物が小さく描かれ、その背景を細かく埋め尽くす構図が多く見られたように思います。
それは、長さんの描く主人公の孤独とまでは言いませんが、世界(世間)との距離感みたいなものを感じます。
後に描かれる<ヘンテコおじさん>もの・・・「トンカチおじさん」「なんじゃもんじゃ博士」がどこにも所属しない孤高の旅人であるのに繋がっているように思うのです。
私は、無意識ですが、そんなところ(まだうまく言えませんが)に惹かれていたのかも知れません。
しかし、おしゃれで、かわいくて、ちょっとワン・テンポおいてムフフと笑いたくなるようなユーモアがたまらないです。
とくに「カチューシャ」の絵は、美しくて好きです。


※長さんのことと関係はないですが、<フォノシート>の名称とコダマプレスについて参考まで。
<ソノシート>の方が通りがいいと思いますが、一般名称としては、<シートレコードまたはフイルム・レコード>です。ソノシートは、フランスのソノプレス社の特許です。昭和34年に朝日新聞社が提携して「朝日ソノプレス社」(現・朝日ソノラマ)を設立。ニュース雑誌にソノシート(有名人の肉声やソ連のロケットの発射音とか)を付けて発売しました。<ソノシート>というのは同社の登録商標です。よって他社は、それぞれ独自の名称を付けました。コダマプレスは、<フォノシート>、コロンビアは<コロシート>、ビクターは<ミュージックブック>という具合に。<ソノシート>が今も記憶にあるのは、昭和39〜40年頃からテレビ・アニメーション「鉄腕アトム」「鉄人28号」などを次々に発売して爆発的な人気を得たからです。ちなみにコダマプレスは、朝日ソノラマと同じようにコミックス(新書版漫画本)も制作していたようですが、1967年5月に倒産しているということです。   (2006.4.7 記)


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