『微視的散歩』 |
〜私という現象〜 |
喋るということ |
俺は、友達なんかと遊びで、よく「黙りっこ」ってのをやったんだけど。 どっちが、いつまで相手に話しかけずにいられるかってやつ。 それで俺は、いつも負けてばっかりでね。 別に言いたい事は何もないんだけれど、喋らずにはいられないんだなあ、これが。 こうモゾモゾして、喋らないと何だか不安で落ち着かないんだ。 お喋りってのは、中毒なのかね。 だけど喋り出した途端、その話の内容のあまりの馬鹿馬鹿しさに呆れるんだな。 呆れて物が言えないっていうか。 でもそのまま喋り続けるんだけどね。(笑) まあ俺は、普段からひどく矛盾した事でも平気で言っちゃうし。 第一そんな事は気にもしてないっていうか。 寧ろ、それを面白がってるところがあるんだけれど。 結局俺は、相手と同時に自分に対しても話して聞かせてる「面白がり屋」なんだな。 だいたい矛盾してない話っていうか、 「俺の言ってる事は正しい。全部正しい。絶対正しい」なんてのは、 ちっとも面白くないし、不愉快になるんだ。 こう可愛くないっていうかね。 あの思想とか宗教とかいうやつが、そうみたいだけど。 俺、ああいうの全然納得(納豆が食いたいなあ)できないんだなあ。 信じらんないっていうか。 俺なんか、自分の今言った言葉にさえ自信ないのに。 まあ、これはひどすぎるとは思うけどね。 俺は、自分の考えや気持ちを言葉に翻訳して (もっといい比喩があればいいんだけど)やった途端に、 その考えや気持ちと言葉のずれが気になって仕方がないんだ。 何だか自分の今思った事が言葉に引きずられるっていうか。 言葉の調子のいい方へ持って行かれてしまう感じで、 「いや、そうじゃない」って言いたくなる。 そんな事がしよっちゅうでね。 まあ、言いたい事は何もないっていうのは、 自分の考えや気持ちを言葉でもって完璧に表現する自信がないっていうか、 諦めの気持ちから出ているんだと思うんだけどね。 でも言葉にしなければ、どうしようもないし、諦めて喋るしかない。 そうなると喋るって事は、実に虚しい行為って感じになるんだけれど、 でもまあ楽しくもあるんだよね、やっぱし。 喋らずにはいられないしね。 だから、せいぜい面白がって喋る事にしてるんだ。 矛盾をたっぷりと効かせてね。 |
喋るということ 2. |
俺はね、ひねくれ者と思われるかも知れないけど、いや実際そうなんだけど。 例えば、俺が何か言いたいことがあって、それを喋ったとするだろ。 それで相手に「お前の言いたいことは分かった」なんて言われると 頭に来るんだな。分かるだろ、何となく。 確かに、俺は相手に理解してもらいたくて、 自分の事やら何やらを喋ったりしたつもりなんだけど。 そんな簡単に俺の事が分かってたまるかってなもんでね。 ひどく自分勝手なのかも知れないけど、そうなんだ。 それは、俺が自分の喋っている事に対して、 本当にそうなのかって自信が無いこともあるんだけど。 いつも喋りながらその逆説が頭に浮かんでくるから。 だけどそれだけじゃなくて俺の中に理解されてたまるかっていう気持ちがあるんだな。 それはどういう事かって考えたんだけど。 つまり相手に理解されないものを持つ事で、俺が俺であることが出来るっていうか。 相手の持っていないものを持っているのが俺なんだ。 だから「俺はお前の理解出来ないものを持っているぞ」って事を、 理解してもらいたくて喋っているようなもんなんだ。 うん、矛盾してるけどね。 だから喋り続ける為には、常に相手に理解出来ないものを持ち続けなければならないんだ。 もし相手が俺の言った事を理解してしまったとしたら、 今度は「今言ったのは、みんな嘘だよ」って言うかも知れないし。 あるいは「俺はそんな奴じゃないよ。それは俺のほんの一部だよ」 なんて言い出すと思うんだ。 もし俺の事が相手に全部理解されてしまったとしたら、 その時は、俺がこの世から消えてしまったのと同じだからね。 でも俺は、ひとりの人間を完全に理解出来るなんて思っちゃいないし。 自分が「ああ、こいつはこんな奴か」って思うだけで、 実際そいつがそんな奴かなんて確かめ様が無いんだ。 テレパシーでもなけりゃね。 |
詩なんて書いてどーすんだ |
詩なんて書いてどーすんだ。 誰がそんなこと言った。 世間の奴らか? いや、俺が言った。 詩を書いてる奴は気持悪いぞ! 詩を読んでる奴は情けないぞ! 元気のいい詩が書きたい。 勇気の出る詩が書きたい。 でも情けない詩もいいぞ。 どうしようもなく、 いい加減の、 デタラメの、 嘘っぱちの、 平和な詩が書きたい! 詩なんて書いてどーすんだ。 いや、どーもしねえ。 |
未完成 |
僕はスケッチするように詩を書く だからそこには自分の姿は無い 僕の詩は僕の視線だ そこには思想も宗教も 教訓も物語も無い ただ僕がいるこの世界があるだけ でもこの世界とは何なのだろう 僕の目に見える この光この色この物質 そしてそれらを見ている 僕という物質とは いったい何なのだろう 僕をぺちゃんこにしてバラバラにして 擦り潰して電子顕微鏡で覗いて そこにある究極の物質 その最小の粒の正体は いったい何なのだろう 僕が思うのはただそれだけ でも思うこととは何なのだろう 僕の視線とは何なのだろう 意思すること無しには 何も見ることは出来ない 肉体と精神の外側にある この世界とは何なのだろう 僕にとって詩とは 永遠に確認することの出来ない この世界を描こうとする 無謀な試みなのだ |
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僕はときどき呼吸をすることが、とても面倒臭くなることがある |
呼吸をすることが面倒臭い。 吸う、吐く、吸う、吐く、吸う、吐く・・・・ これを死ぬまで(当たり前だが)続けなければならない。 こんな煩わしいことがあるか。 そう思う時、しばらく呼吸を止めてみる。 ・・・・10秒・・・・20秒・・・・30秒・・・・40秒・・・・ 目を開けていることが面倒臭い。 目を開けている限り、何かを見なければならないし、 何かを見る為に焦点を合わせなければならない。 こんな煩わしいことがあるか。 そう思う時、しばらく目を閉じてみる。 ・・・・10秒・・・・20秒・・・・30秒・・・・40秒・・・・ 僕の身体は常に動いている。 あごを掻いている。ひざを組んで貧乏ゆすりをしている。 こんな煩わしいことがあるか。 そう思う時、目を閉じて、呼吸を止め、身体を硬直させる。 ・・・・10秒・・・・20秒・・・・30秒・・・40秒・・・・ ああ、心臓の音がうるさい! 十代の頃に書いた詩。 こんな自分を笑うつもりで書いたんだけど、なかなか伝わらないものだ。 |
酒癖 |
僕は、お酒を飲むと理屈をこねるらしくて、 けれど普段の僕は、 もうまったくグニャグニャで話にならず、 「お酒を飲んだ時の方がしっかりしてるぞ」 なんて言われるくらいで、 でもどっちにしても、 やっぱりしっかりしてない訳で、 その証拠に、僕のこねる理屈は、 「・・・であって・・・であって ・・・しかし・・・であって ・・・んでもって・・・であって・・・」 といった具合で、なかなか終わらなくて、 というか全然終わるはずもなく、 僕の理屈に結論はないのです。 |
不確かな一人称 |
私は、わたくしは、アタシは、 僕は、俺は、オイラは、 拙者は、おいどんは、 いつも迷ってしまう。 ひとに話かける時、 どの一人称を使おうかと。 そのどれもが、不完全の、一部分の、 あるいは、嘘つきの自分であり、 空から降ってきたような、 本来の自分とは関係のない言葉に、 身体の内部がむず痒くなる。 そしていつも、 間抜けな着ぐるみの人形で 人前に出ているような気分のまま、 モゴモゴと 話し出すのだった。 |
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僕は、がらんどう |
僕は、町中をふらふらと歩いている。 町の雑音(ノイズ)が、 僕の身体の中で増幅されて ワァンワァンと響き合っている。 僕は、がらんどうになって、 町を彷徨い歩いている。 すこし酔っぱらって歩いている。 |
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行進 |
俺って、行進すんのが好きなの。 それもこう、よたりながら、ダラシナク、 ふざけ合いっこしながら、 口笛なんかピッピッラピッピラでたらめに吹いてさ。 仲間とそんな風にいい加減に行進すんのが好きなんだ。 命令されて足並みなんか揃えさせられて 怒鳴られたりすんのは、大嫌いでさ。 俺は、すぐびびっちゃう方だから、 右腕と右足を一緒に出したりしてね。 繁華街の通りを仲間と並んで歩くってのは、 一種の行進だよね。 通りに流れる有線の歌謡曲が行進曲でさ。 俺は、そんな時とっても気持ちがいいんだ、うん。 |
笑うべきこと |
まあ、どうでもいいけど 俺は、ふらふらと歩くそうだ それで危なっかしくて 今にも車に轢かれそうに見えるらしい それでまた、時々俺はドブに足を突っ込んだり 思いっきり看板に激突してみせたり するものだから でもまあ、どうでもいい 俺には夢想癖があって 人と話してる最中にも ある一つの言葉から 別の世界へ行ってしまう 友達は話をやめて 俺の顔を不思議そうに見ている まあ、それもいいんだけど 俺は、ときどき すごいオシャベリになって それも全然ばかばかしい話なんだけど メチャクチャはしゃぎまわるんだ そんな時、みんな俺のことを 「幼稚園さん」と呼ぶんだ けど、喋らない時は 全然喋らない もう全く周囲のことは 俺には関係ないって顔して そんな時は、みんな俺のことを 「お地蔵さん」と呼ぶんだ まあ、面白いけど |
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