『微視的散歩』 |
〜幻視的散歩〜 |
退屈な時間 |
セピア色の時間が、 急ぎ足の地球人たちを さらに急き立てる。 ざわざわとした雑踏は、 ムカデのように歩いた。 デパートの屋上を見上げると、 退屈したアドバルーンが 煙草を吸っている。 乾燥した空気は、 砂を舞い上げて 鼻毛をくすぐる。 僕は、何気ない動作を装いながら、 注意深く周囲を伺った。 (つ・け・ら・れ・て・る・か・も・ し・れ・な・い・ぞ) だが、それらしい人影は 見当たらない。 脇に挟んだビニール製の黒い鞄は、 汗でじっとり濡れていた。 停留所に停まったバスに 乗り込む人の列。 真っ白いハンカチで額の汗を拭い、 空を見上げると、 新品の十円硬貨のように輝く UFOが一機、 こちらを睨んでいた。 |
落陽 |
地球に残された短い時間の中で 巨大な火星人のような鉄塔が 夕陽を輪切りにして建っている 棚引く製紙工場の煤煙は オレンジ色の雲の中へ 水彩絵の具のように溶けていく 影になる街並と煙突が 蜃気楼のように ゆらゆらと揺れて見える 滅亡した人類の遺跡を 幻視しながら 今日一日の仕事を終わらせる為に 西へ車を走らせる |
地球空洞説 |
極寒の氷の海を極点に向かって、 私たちは船を進める。 突然空一面に、異次元空間へ誘うかのような 美しいオーロラが出現する。 そしてどこまでも続くかと思われた 巨大な氷山の群れは、 私たちの進む方向へ少しずつ流れ出す。 やがてその数は少なくなり、 いつの間にか消えてしまった。 さらに進むと、信じ難いことに頭上の空は、 沸き立つような海面を映し出す。 そしてそこには、 逆さまの帆船が通過していく姿が小さく見える。 やがて空の海は遠ざかり、 もうひとつの見知らぬ太陽が 視界を引き裂くように現れる。 双眼鏡を覗くと、 遠く海の彼方より暗黒の陸地が近づいてくる。 ついに私たちは、 地球内部の世界にたどり着いたのだ。 そして、 そのに住むであろう地底人を想像する恐怖と 好奇心に全身をガタガタと震わせている。 |
水の中の私 |
私は、水の中にいた。 水は澄み、どこまでも明るく、 透明度は落ちない。 魚はおろか、プランクトンもいない。 生命のいない海・・・ はたして海か? 湖か? 水底から、 細かい泡が 数珠つなぎになって 昇っていく。 泡、 泡、 泡 ・ ・ ・ 。 沈んでいく。 沈んでいく。 どこまでも沈んでいく。 しかし、どこまでも明るく透明で、 光に満たされた水の中。 沈んでいく・・・ はたして 沈んでいるのだろうか。 どうして沈んでいると分かるのか? 浮上しているのかも知れない。 いや一所にいるのかも知れない。 私は水の中にいる。 どこにも 行けないで、 透明な 水の檻に 入れ ら れ た 私 。 。 。 。 |
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生きているビニール袋の内臓 |
薄暗い地下の手術室。 湿気った冷たい空気が鳥肌を立たせる。 灰色のコンクリートの壁には、 汚物の黄色いシミを所々に模様していた。 部屋の中央の手術台には、 奇妙な物体が置かれてあった。 僕は、看護婦と二人で、 手術台の脇に並んで立っている。 彼女は、まだ若くて可愛らしい。 二人は、さっきからその奇妙な物体を見ていた。 それは、透明なビニール袋に詰められた 人間の内臓だった。 心臓、肺、肝臓、腎臓、腸などが、 整然と詰められてあった。 そして、その内臓は生きていた。 ドクン、ドクン、ドクンと 心臓の鼓動が、部屋中に響きわたる。 みると、ビニール袋の破れから、 腸がはみ出してくるではないか! 僕と看護婦は慌てて、 それを元に押し込もうとするのだが、 腸は、さらにひどくモコモコモコとはみ出してくるのだ。 僕と看護婦は、焦った。 |
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1. 洪水の夜 | 2. 私という現象 | 3. 遠い記憶 | 4. 眠れない夜 |
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