『微視的散歩』 |
〜遠い記憶〜 |
ゲノムの夢 |
その時なぜか僕たちは、 運動場の真ん中に寝転んで、 ぼんやりと空を眺めていた。 突き抜けるような青い空に、 ちぎれ雲がひとつ ぽっかりと漂っていた。 突然、僕は感じた! 「地球は、僕たちを磔にして回転しているんだ」 ということを。 その瞬間から、僕の身体は地面に張り付いて、 手足を動かすことが全く出来なくなった。 目の前を、空が物凄いスピードで過ぎていく。 雲が次々と現れては、ちぎれて消え去る。 太陽と月が追いかけっこするかのように、 目まぐるしく通り過ぎていく。 そして僕の目は、猿人になり、恐竜になり、 両生類になり、魚類になり、 アメーバとなって空を見ている。 僕は、気が遠くなりそうだった。 だけど、それは とても気持ちがいいことだ。 隣にいた友達は、どう感じていただろうか。 気が付くと、もう夕方だった。 西の空が、オレンジ色に染まっている。 僕たちは身体を起こした。 それは、馬鹿みたいに簡単だった。 急に立ち上がった僕は、よろけてしまった。 友達は僕を見てニャッと笑った。 僕もニャッと笑い返した。 オレンジ色に染まった二人の顔。 細長く伸びた二人の影が揺れた。 遠い日の出来事。 |
夏の日 |
かき氷の練乳のような積乱雲と 数学の図形の問題のように 空に出題された鉄塔が 向日葵の花の向こうに見える 僕はニャロメのTシャツを着て 水撒きをしている |
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陽射し |
窓際の席で、ぼんやり空を眺めて 「ああ、今日はいい天気だなあ」などとニコニコしていると、 いつの間にか目の前に先生が立っていた。 問題を当てられて黒板で二次方程式を解いていると、 突然「めんどくさいなあ」と思ってしまい、 そのまま途中でやめて自分の席へ着いた。 その頃、僕は本に夢中で、 図書館から借りてきた本を授業中に読んでいた。 最初は机の下で、大胆になると教科書の上に置いて読んだ。 昼休みは、図書館で椅子を三つばかし並べて、 その上に寝っころがると日射しが心地良かった。 目を閉じるとゴンドラに揺られているように感じられた。 僕は、よく授業中にトイレに行った。 それが、とても恥ずかしかった。 でも用足しでもないのに、 教室を抜け出しては屋上で日向ぼっこしてたりもした。 僕は、人一倍よく殴られる生徒だったけれど、 だからといって反抗的という訳でもなかった。 ただ全ての事が面倒臭くてどうでもよかった。 |
鉄腕アトム |
学校から帰ると、 誰もいない家の中は僕の宇宙空間になる。 勉強机が僕らの地球。 本立てに並んだ教科書が地球防衛基地。 消しゴムの戦車。 鉛筆のロケット。 筆入れがもちろんロケット発射台だ。 せまい家の中をぐるぐる歩き回ることが宇宙パトロール。 怪獣出現! 猫のミーが役を引き受ける。 そして僕の指は鉄腕アトムになる。 |
夜の幼稚園 |
夜の幼稚園で 六歳の僕はひとり ブランコにぶらさがっている 天にはまん丸い十五夜のお月様が こうこうと照っている すると僕の目の前に カラスが降りてきた 一羽二羽三羽四羽・・・・ 僕は追っ払う為に 大声を出そうとするが 声が出ない やがて幼稚園の庭は 真っ黒けのカラスで埋まる |
卒業 |
十年前に卒業したはずの学校が、 単位をひとつ残したまま、 まだ卒業してないんじゃないか。 真夜中に突然襲う理不尽な強迫観念が、 私の頭の中を渦巻いている。 そんなことはないと分かっていても、 何か忘れ物をしているような切ない思いに駆られ、 あの時間あの場所へ戻って確かめてみたくなる。 本当の自分はあの時から何一つ変わってなくて、 むしろ社会人でいた自分は 夢を見ていた一瞬のような気がして、 目が覚めると、あの下宿の部屋にいるんじゃないか。 だが、そんな妄想を必死で払い除ける。 私は、知っているのだ。 どんなノスタルジックな思いで、 実際あの場所に戻ってみても、 もう何一つあの頃の自分の痕跡は残っていないのだ。 |
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1. 洪水の夜 | 2. 私という現象 | 3. 遠い記憶 | 4. 眠れない夜 |
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